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「アスリートのデュアルキャリアについて」 〜井筒陸也の原体験から探るアスリートのキャリア形成について〜 #2

投稿日:2018年6月22日 更新日:

デュアルキャリアを体現しているアスリートに話を聞く「AYSインタビューコーナー」。記念すべき最初のインタビュイーは、大学サッカー史上唯一の単独での四冠を成し遂げ、現在J2の徳島ヴォルティスで選手会長も務める井筒陸也さん。「敗北のスポーツ学」というオウンドメディアでもスポーツと社会の関係性についても発信されています。その思考の源泉についてお話を伺ってきました。

井筒陸也さんプロフィール

1994年生まれ。大阪府出身。中学時代は創設者自らが産業廃棄物処理場と宣言するチームで「サッカーやっていい身体能力ではない」と毎日言われる中、ボールを蹴る。初芝橋本高校、関西学院大学でともにサッカー部で主将。大学四年次に二度の日本一を含むすべての学生タイトル獲得、人生のピークを迎える。2016年からJリーグ徳島ヴォルティスでプロサッカー選手、選手会長。年間70万円がAmazonで買う書籍代に消える。(個人メディア「敗北のスポーツ学」 http://note.mu/izz_izm)

 

【もう一度大学のキャプテンをするなら「日本一」という目標は立てない。】

杉谷 今だったら大学時代こういうマネジメントをする」というイメージはありますか?

井筒 今やったら日本一とかいう目標は立てずにやるかなって思っています。実際に日本一なった時に別に何もないなっていうのは、なったからこそ悟れた部分もありますけど、実際そうだと思いますね。

なっても何もないじゃないですか。

なったってだけで、就職先が決まるわけでもないし、思い出としては良いんですけど別に日本一でも二位でも今の自分の状況は変わっていないと思っています。そういう時に目標が一番大事なものを邪魔しちゃう瞬間はあるなと思って、だから今僕目標を立てずにやっていて、好奇心とか、その都度自分がどうありたいか見たいなのと照らし合わせながら、生きてるという感覚があります。

 

【どういう人間でありたいかをベースで生きる】

井筒 いつもこういう時にゴミ拾うか拾わないかみたいな話をするんですよ。例えばゴミがクラブハウスに落ちていたとして、その時僕って拾うか拾わないかめっちゃ迷うんですよ。

それって今までは“ゴミを拾う事でそれを誰かが見てて評価してくれる”、例えば試合に使ってもらえるとか、あいつ良いやつだなって思われたりとかそういう拾った行動に対する結果みたいなところを1秒くらいの間に無意識的に考えてやってたんですよ。これ目標設定して生きるタイプの人間であることの証明になります。

今それより大事にしているのは“ゴミを拾う人間でありたいかどうか”。今ここで自分がどうありたいかみたいなのをベースで生きないといけないなっていう風に思ってそういうのは常に問いかけながらやってます。

去年プレーオフを賭けた東京ヴェルディ戦に途中から出たんですけど、引き分け以上でプレーオフ出れるってところで負けちゃって出れなかったんです。自分はそういう大一番になれば体も張るしチームのためにプレーする人間にいつでもなれるって思ってたんですよ。けど全然やっぱ体とか張れなくて。張れるんですけど、1秒とか0.5秒くらい遅くて。普段からやってる人間に比べれば。そういうメンタリティを持った人間になりたいですね。こういう重要な局面での無意識的なプレーも、普段から有意識的にやっておかないとできないんですよね。

 

 

【大事な場面で活躍できる人間になるためには~プロになった一番の気づき】

杉谷 もうゴミを拾うのがスタンダードだっていう人間という人間を目指すと。

井筒 拾えるんですよ。でもサッカーとかでも一緒で大事な試合になればスライディングできるからとか、大事な試合になればチームのために行動できると思うんですけど、実際には本番ギリギリに意識しては出来ない。練習なり普段からやってる自分のありたい像と一貫した行動を積み重ねているからこそ、そういう大一番で発揮できる。

本当に狙ったところに蹴るには、普段の練習から積み重ることが必要なのと一緒で、こういうメンタルモデルも積み重ねていたら絶対にできるようになると考えています。

 

【抽象化する作業がモチベーションとなっている】

杉谷 ブログについてもお聞きしたいです。明確な目標設定がないのに、なぜここまで良質な思考ができるのか、その動機をお聞きしたいです。そのエネルギーはどこから来てるんですか?

井筒 ロングタームインセンティブって言葉があるんですけど、これは手に入れようとする能力が長い期間使えることが、その獲得の動機になることを意味します。例えば僕がどれだけサッカーが上手くなっても、その資産って長くてもあと10年くらいしか使えないんです。仮にもしそうだとしたら魅力を感じないんですよ。

でも、例えば自分の人間性とかビジネススキルというのは75年間使えるんですよね。となると、単純にサッカーの技術とビジネススキルを天秤にかけたとき、僕は単純にこっちの方がモチベーションがあるんですよ。だって後75年使えるから。これを同じ苦労で手に入れるって考えたら絶対後者だという考えになるんですよね。

とはいえ、僕は今ビジネススキルを手に入る環境にはいないので、じゃあ現状のリソースを活かして何をするかとか、置かれた環境で何を学ぶのか、この環境に残り何年いるのかということを決めるのは僕次第だと思うんですよ。

これが単純にサッカーだけになってしまうと、その知識や経験はあと10年しか使えない。だからこの経験を抽象化して、自分の人生レベルもそうだし社会にとっても有益みたいなところまで持っていければ、この資産は残り75年使えるんですよ。

サッカーを抽象化して生み出した付加価値を出し続ければ、その記録はサッカー界以外にも必要とされるのではないか。こういう仮説を抱いているので、ブログを継続しています。この作業は別に自分にとってすごくモチベーションがあるし、発信していると結構反響もあったりします。それに伴って長期的な自分の資産も溜まってると考えると単純ワクワクする。だからこそこのブログが存在しているという感じですね。

noteで連載中のブログ「敗北のスポーツ学」。井筒さんは独自の視点から主にスポーツに関わるアウトプットを発信されており、全てのスポーツに文脈を持つ人々、必読の内容となっている。⇨http://note.mu/izz_izm

 

 

一例)引用記事「0.01秒の世界で生きるための集中力とタスクマネジメント」

無意識レベルでのアウトプットを必要とするスポーツ選手というテーマから、自身のタスクを消化するフローチャートを分析・公開されている。

 

杉谷 僕も「セカンドキャリア」という言葉があまり好きではなくて、「セカンド」という言葉がつくから、アスリートとして蓄積されている「ファースト」の資産を活かし切れない。平行して、次の資産を貯められるのに「セカンドキャリア」という言葉があるから「終わってから考えよう」となってしまうと思っていて。

だからこそ「今だから作れる無形資産がある」ということを現役体育会生やプロアスリートが認識することが重要だなと思います。その上で無形資産の蓄積状況をモチベーションにするといった、動機付けの方法も参考になるなと聞いていて感じました。

 

【現役体育会生/アスリートに向けて】

杉谷 最後に将来のキャリアに関して不安を抱えている元/現体育会生に向けてアドバイスがあれば教えていただきたいです。

井筒 2つあります。まずアウトプット先を持つこと。そして自分がそもそも何者なのかを問うことが大事だと思います。希少度を高めることが重要だと考えていて、僕が思っているのはアウトプットとかって結果出した人間だけができるみたいな節あるじゃないですか。僕も1、2年目とか試合出てない時はブログ書きたかったけど、今書いたらサッカーもできてないのにそういうのをするのはダメじゃないかと躊躇してしまうみたいな。

でもこれ間違ってると思う理由が2つあって、1つ目はそもそも成功したやつの話をどれぐらいの人が聞きたいかということ。確かに聞きたいんですけど、それより失敗したやつの話も面白かったりするんですよ。やっぱ失敗から学ぶということに対する面白みとか、ある種「野次馬」という感覚で周りの人も気軽に見れる感じ。「ちょっと見てやろう」という感覚と一緒で、だからこそあまり結果出してない人間とか悩んでる人間こそ発信したりとか自分の価値考えたりするのは超大事だと考えています。

もう一つは本田圭佑(以下本田)ぐらい結果を突き詰めても、結局炎上してるじゃないですか。だから一緒なんですよ。どんだけ結果出しても「お前結果出してから言えよ」という話になるんですよ。だったらそこは気楽にやればいいと思う。別にJ2で試合に出てても結果残してるとは言えないし、ある意味結果残してるとも言えるし。本田もそうじゃないですか。試合に出てようが出てなかろうがそれは炎上するし、どっちにしろ。

これに加えてもう一つは、ある意味本田はもう何もしなくても生きていけると思うんですよ。多分お金いっぱい稼いでるし、誰かに必要とされる人間になっているから。でもまだ何者でもない自分たちこそ、考えを発信したり自分の価値を高める作業をしないといつか食いっぱぐれる。今自分が何者でもない、何もやってこなかったとか、就活不安って感じる大学生こそアウトプットしてほしい。そのために自分の過去を深ぼってみて欲しい。この辺りは伝えたいと感じますね。

 

P.S 杉谷

私が井筒選手に衝撃を受けたのは「敗北のスポーツ学」というブログがきっかけでした。現役体育会生200人以上と話す中で感じていた、アスリートの「抽象化」が苦手であるという共通課題。私はこの内的要因に加えて、他業界の情報不足という外的要因が加わった時に「セカンドキャリア問題」が発生すると考えています。そんな中「敗北のスポーツ学」で目にしたのは、井筒さんの言語化能力と抽象化する力に裏打ちされた思考の数々でした。私は直感的に井筒さんは全アスリートやスポーツ界、ひいては日本社会に革命を起こす方であると確信しました。そこからコンタクトを依頼し、この対談が実現しました。記念すべき第一回インタビューに井筒さんをお迎えできたことを心から誇りに思います。私たちのビジョンは「全アスリート総デュアルキャリア時代を創る」です。遠い道のりかもしれませんが、多くのプロフェッショナルな方々と手を組みながら、一歩ずつ歩んでいきたいと思います。改めて感謝の意を申し上げます。井筒さん本当にありがとうございました!

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